建設業法における建設工事とは?建設工事に該当しない工事かを簡易的に判別する方法は?
建設業法における建設業とは、建設工事の完成を請け負う営業のことですが、この「建設工事」とは何でしょうか?
いきなりそう聞かれても、戸惑ってしまいますよね。
しかし、この建設工事というものを知っておくことは、工事を請け負う建設関係の方にとっては、とても重要な事なのです。
それでは、なぜ建設工事を知ることが重要なのでしょうか?
建設工事とは一体何なのでしょうか?
建設工事に該当しない工事かどうかを簡易的に判別する方法はないのでしょうか?
今回は、このような内容について解説してみます。
目次
なぜ建設工事を知ることが重要?
まず、なぜ建設工事を知ることが重要なのか、ということですが、請け負う工事が建設工事かどうかによって、様々な影響を及ぼすからです。
理由としては、以下のようなことが挙げられます。
1.請け負う工事が建設工事かどうかで、建設業許可が必要かどうかに違いが出る。
軽微な建設工事以外の建設工事の完成を請け負う場合は、建設業に該当するため、建設業許可を取得しなければいけません。
建設工事でなければ、建設業には該当しないため、建設業許可は不要です。
2.請け負う工事が建設工事かどうかで、財務諸表の書き方に違いが出る。
建設業許可申請や事業年度終了届で提出する財務諸表の書き方が変わります。
請け負う工事が建設工事である場合は、建設業として取り扱うことになります。
請け負う工事が建設工事でない場合は、兼業として取り扱うことになります。
3.請け負う工事が建設工事かどうかで、経営業務の管理責任者や専任技術者の経験年数に算入できるかどうかに違いが出る。
建設業許可を取得する場合、経営業務の管理責任者や専任技術者がいることが必要です。
この経営業務の管理責任者や、特定の資格を持っている場合を除く専任技術者は、定められた年数の経験が必要です。
請け負う工事が建設工事である場合は、その期間を経験年数に算入できます。
請け負う工事が建設工事でない場合は、その期間を経験年数に算入できません。
その他にもありますが、請け負う工事が建設工事かどうかで、以上のように様々なところに影響が出てきたりします。
請け負う工事が建設工事かどうかを確認することは、とても重要な事なのです。
建設工事とは一体何?
建設工事かどうかを知ることは、重要なことはわかったところで、建設工事とは何かについて調べてみたいと思います。
建設業法に記載されている建設工事の定義
建設業法では、以下のように定義されています。
(定義)
第二条 この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。
「上欄」と言われても、e-Gov法令検索などで別表第一を見ても、何のことかよくわからないと思いますが、法律というのは本来縦書きなんですね。
e-Govでも、縦書きのPDFファイルをダウンロードできるので、一度見てもらえるとわかりやすいと思います。
すなわち、土木建築に関する下記の工事が建設業法における「建設工事」となります。
1 土木一式工事
2 建築一式工事
3 大工工事
4 左官工事
5 とび・土工・コンクリート工事
6 石工事
7 屋根工事
8 電気工事
9 管工事
10 タイル・れんが・ブロツク工事
11 鋼構造物工事
12 鉄筋工事
13 舗装工事
14 しゆんせつ工事
15 板金工事
16 ガラス工事
17 塗装工事
18 防水工事
19 内装仕上工事
20 機械器具設置工事
21 熱絶縁工事
22 電気通信工事
23 造園工事
24 さく井工事
25 建具工事
26 水道施設工事
27 消防施設工事
28 清掃施設工事
29 解体工事
これらに該当すれば建設工事なのですが、上記の列記した工事名だけでは、建設工事に該当する工事かどうかは判断しづらいかと思います。
たとえば、船の内装工事は、当てはめるだけなら「19 内装仕上工事」に当てはまりそうですが、本当に建設工事なのでしょうか?
当てはまっているようにも思えるので、建設工事に該当しそうな気もしますが、実は、上記のような工事は、建設工事に該当しません。
こちらに列挙されている工事名だけでなく、定義にある「土木建築に関する工事」というところがポイントです。
土木建築に関する工事ということは、土木施設や建築物に関する工事ということですね。
土木施設に関しての説明をされている法令などは見つけられなかったのですが、日本標準産業分類では、土木工事業について、下記のような説明をされています。
主として堤防・護岸・水利・床固・山腹工事などによる河川・砂防・海岸・治山施設工事,ダム工事,各種の貯水池,用水池などの建設工事,各種の水路工事,かんがい排水施設工事,防波堤,岸壁・桟橋などの港湾施設工事,埋立工事,干拓工事,開墾工事,軌条敷設・停車場・鉄道土工・伏せどい・溝橋などの鉄道施設工事,地下鉄・地下工作物工事,ドック建設工事,高架道路・高架施設工事,橋りょう工事(鋼橋上部工事を除く),ずい道工事,水源施設・浄水施設・送水施設・配水施設などの上水道工事,下水管きょ・ポンプ施設・下水処理場などの下水道工事,道路工事,駐車場工事,飛行場・水上飛行場工事,運動競技場・競馬場・競輪場工事,宅地造成工事などの全て全て又はいずれかを行うことによって,土木施設を完成する事業所をいう。
「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)-分類項目名 大分類D 建設業 説明及び内容例示」(総務省) (https://www.soumu.go.jp/main_content/000290723.pdf)を加工して作成
建築物は、建築基準法に以下のように定義されています。
第二条
一 建築物 土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)、これに附属する門若しくは塀、観覧のための工作物又は地下若しくは高架の工作物内に設ける事務所、店舗、興行場、倉庫その他これらに類する施設(鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関する施設並びに跨こ線橋、プラットホームの上家、貯蔵槽その他これらに類する施設を除く。)をいい、建築設備を含むものとする。
船は、土木施設、建築物のどちらでもないので、建設工事に該当しない、ということになります。
今の状態ですと、判断が難しいですよね。
「土木建築に関する工事」といわれても範囲も、作業内容も曖昧です。
建設業法だけを見ていても、これ以上の情報がありませんので、他の方法で調べてみましょう。
日本標準産業分類に記載されている建設工事の定義
それでは、一般的に定義されている建設工事というものを調べてみます。
日本標準産業分類では、建設工事について、下記のように説明されています。
建設工事
建設工事とは,現場において行われる次の工事をいう。
(1) 建築物,土木施設その他土地に継続的に接着する工作物及びそれらに附帯する設備を新設,改造,修繕,解体,除却若しくは移設すること。
(2) 土地,航路,流路などを改良若しくは造成すること。
(3) 機械装置をすえ付け,解体若しくは移設すること。
出典:「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)-分類項目名 大分類D 建設業 説明及び内容例示」(総務省) (https://www.soumu.go.jp/main_content/000290723.pdf)
こちらの説明であれば、少しだけ含みも持たせていますが、範囲や作業内容がわかりやすいと思います。
こちらに該当する工事は、建設業法の対象となる工事、すなわち建設工事ということですね。
逆に、これらに該当しない場合は、建設業法の対象外の工事、建設工事にあたらない工事、ということになります。
建設工事に該当しない工事かどうかを簡易的に判別する方法は?
日本標準産業分類の定義を見て、多少わかりやすくなったとはいえ、上記に該当するかを一つ一つ確認していくのも、少し大変だと思います。
簡易的に判別したい場合は、日本標準産業分類の建設工事についての説明の(1)にある「建築物,土木施設その他土地に継続的に接着する工作物及びそれらに附帯する設備」を、「新設,改造,修繕,解体,除却若しくは移設」というところに着目するといいと思います。
建築物、土木施設、その他土地に継続的に接着する工作物、それらに附帯する設備も、全て「土地に定着する工作物」ですよね。
新設,改造,修繕,解体,除却若しくは移設ということなので、簡易的な作業では該当せず、「大規模な工事」でないと該当しないということですね。
ということは、「土地に定着する工作物」に対する「大規模な工事」でない場合には、建設工事には該当しない、ということになります。
それでは、先に例に挙げた「船の内装工事」が、こちらに該当するかを確認してみましょう。
船は「土地に定着する工作物」ではないですよね?
このため、建設工事には該当しない、ということになります。
上記の他にも、樹木の剪定なども、建設工事ではありません。
樹木は「土地に定着」はしていますが、「工作物」ではないためです。
保守点検作業などの維持管理も建設工事ではありません。
「土地に定着する工作物」に対して行うものであっても、「大規模な工事」ではないためです。
もちろんすべてをこれだけで判別できるわけではありませんが、大抵のものはこれで判別できるので、簡易的に判別したい場合は、このような視点で、確認するといいと思います。
手始めの足切りとして使えると思います。
まとめ
今回は、建設業法における建設工事について解説しました。
まとめると以下のとおりです。
・請け負う工事が建設工事かどうかによって、様々な影響を及ぼすため、建設工事を知ることは重要。(建設業許可の要否、財務諸表の記載方法、経営業務の管理責任者や専任技術者の経験年数への算入の可否等)
・建設工事とは、土木建築に関する建設業法別表第一に記載されている29種類の工事のこと。「土木建築に関する」という文言に注意が必要。
・建設工事に該当しない工事かどうかを簡易的に判別したい場合は、「土地に定着する工作物」に対する「大規模な工事」かどうかに着目する。
「土地に定着する工作物」に対する「大規模な工事」でない場合には、建設工事には該当しない。
上記のとおり、請け負う工事が建設工事かどうかについては、最初から知っておかないと痛い目を見る可能性があります。
「許可が必要な工事だった・・・」とか、「過去に行っていた工事が建設工事ではなかっため、また一から経験を積まなければいけない・・・」というようなことがないように、しっかりと事前に把握しておきましょう。
もし、よくわからないという場合は、お近くの行政書士や弊所までご相談ください。