補助金を返還しなければいけない場合がある?収益納付とは?
補助金は交付されたら、どんな場合でも返さなくていい、というイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。
実は、そうではない場合もあります。
一定の条件に該当する場合に、補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付しなければならないという補助金もあります。
これを「収益納付」というのですが、あまりこちらについて認識されていない方も多いようです。
この収益納付は、補助金申請をする際には、必ずご理解をしていただくべき項目の一つです。
収益納付をご存じの方であっても、情報を少しだけ聞きかじっただけとなってしまい、「補助金をもらっても、収益を返還しなければいけないなら、申請するのをやめた」と、途中で補助金申請を投げ出してしまった方もいらっしゃるかもしれません。
こちらの場合も、少し誤解をされている可能性もあります。
売上を上げられる機会を損失してしまっているかもしれません。
それは本当にもったいないです。
ここでは、そんな内容がわかりづらい収益納付について、説明をさせていただきます。
補助金が交付されたのに、最終的に返さないといけないと言われてしまい、計画が狂ってしまった、なんてことにならないように、しっかりと理解しておきましょう。
目次
収益納付とは?
収益納付とは、補助事業の完了により相当の収益が生ずる場合において、その交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付することです。
こちらは、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(通称:補助金適正化法) 第7条第2項に下記の規定があります。
第7条
2 各省各庁の長は、補助事業等の完了により当該補助事業者等に相当の収益が生ずると認められる場合においては、当該補助金等の交付の目的に反しない場合に限り、その交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべき旨の条件を附することができる。
こちらが根拠法令となっています。
全ての補助金で収益納付は必要?
上記の補助金適正化法 第7条第2項をよく見ると、「各省各庁の長は、・・・国に納付すべき旨の条件を附することができる。」となっています。
条件を附すこともできるし、附さないこともできる、ということです。
ということで、収益納付が必要かどうかは、その補助金による、ということです。
ちなみに、国が行っている有名な補助金ですと、小規模事業者持続化補助金、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(通称:ものづくり補助金)、事業再構築補助金などは収益納付があります。
収益納付が必要な補助金の場合、どんな補助事業でも収益が出たら、必ず補助金を返還しないといけない?
では、収益納付が必要とされている補助金の場合、どんな補助事業でも収益が出たら、必ず補助金を返還しないといけないのでしょうか?
補助金適正化法 第7条第2項をもう一度見てみると、以下のように記載されています。
「各省各庁の長は、・・・当該補助金等の交付の目的に反しない場合に限り、その交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべき旨の条件を附することができる。」
「当該補助金等の交付の目的に反しない場合に限り」ということですので、交付の目的に反する場合は、納付すべき旨の条件を付することはできません。
とされていますが、交付の目的に反しているかどうかなど、主催者のさじ加減で変わりそうなことを言われても、どうしようもないと思います。
ただ、少なくとも、その補助金によって違う場合がある、ということは読み解けます。
ここからは小規模事業者持続化補助金<一般型>を例に説明をしていきます。
まず、小規模事業者持続化補助金の場合、交付規定に収益納付の規定があるにはあるのですが、「納付させることができる」としているだけで、内容については詳しい説明がないのですが、「補助事業の手引き」という資料に説明が記載されています。
詳しくは、そちらをご覧頂きたいですが、収益納付が必要となる事業者は、「補助金により直接収益が生じる取組を行った事業者」に限定されています。
この「補助金により直接生じた収益」についてですが、以下の場合は、収益との因果関係が必ずしも明確でないため、該当しない、と明言されています。
・商品の生産やサービスの提供に直接関わりをもたない備品の購入
・チラシの作成や配布
・ホームページの作成・改良(ネットショップ構築を除く)
・広告の掲載
・店舗改装
など
ということで、小規模事業者持続化補助金の場合では、これらに該当する場合や、これらと同じように、収益との因果関係が必ずしも明確でない事業であれば、収益納付は全く不要です。
ちなみに、逆に、下記のような場合は、補助金により直接収益が生じると判断され、収益納付が必要と明言されています。
<補助金により直接収益が生じる(⇒交付すべき補助金から減額する)ケースの例>
① 補助金を使って購入した設備で生産した商品の販売・サービスの提供による利益(機械装置等費等が補助対象の場合)
② 補助金を使って構築した自社のネットショップ(買い物カゴ、決済機能の付加)の活用での販売や、他社の運営するインターネットショッピングモールでの販売による利益(ウェブサイト関連費等が補助対象の場合)
③ 補助金を使って実施または参加する展示販売会での販売による利益(展示会等出展費等が補助対象の場合)
④ 販売促進のための商品PRセミナーを有料で開催する場合に、参加者から徴収する参加費収入(借料等が補助対象の場合)
しつこいようですが、上記は小規模事業者持続化補助金の場合の話です。
他の補助金の場合には、収益納付が必要な補助事業に該当するかもしれません。
ご自身が実施しようとしている補助事業が収益納付が必要かどうかは、必ずその都度確認しましょう。
収益納付が必要な補助事業を実施する場合、実際に納付する金額はどのくらい?
では、収益納付が必要な補助事業を実施する場合、実際に納付する金額はどのくらいなのでしょうか?
補助事業が完了して、受給した補助金額分の収益が出たら、受給した補助金額分は全て返還しないといけないのでしょうか?
補助金適正化法 第7条第2項をもう一度見てみると、以下のように記載されています。
「各省各庁の長は、・・・その交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべき旨の条件を附することができる。」
「全部又は一部」とあるので、「全部」とするか「一部」とするかも各省各庁の長が決められるということですね。
ということで、こちらの内容についても受給する補助金によって違いが出てくるということです。
このため、ここでも小規模事業者持続化補助金<一般型>を例に説明をしていきます。
こちらは、収益納付に係る報告書に計算式が記載されています。
補助金額(A)
補助事業対象経費(B)
補助事業に係る売上額(C)
補助事業に係る収益額(D)
控除額(E)
=補助事業対象経費(B)-補助金額(A)
納付額(F)
=(「補助事業に係る収益額(D)」-「控除額(E)」)×(「補助金額(A)」/「補助事業対象経費(B)」)
*円未満切上げ
こちらの計算式から、下記のようなポイントが挙げられます。
・補助事業に係る収益額(D)とは、「補助事業に係る売上額(C)」から、同売上額を得るのに要した額(補助対象経費以外の製造原価・販売管理費等)を差し引いた額です。
なお、「補助事業に係る収益額(D)」がゼロまたはマイナスの場合には、(D)はゼロとなるため、「納付額(F)」の分子の計算を見てもらえばわかりますが、納付不要となります。
・「補助事業に係る売上額(C)」は、補助事業期間における当該事業の売上額です。
このため、補助事業期間は売上が無く、補助事業期間が終わった後に、売上が出たという場合は、収益納付は不要ということになります。
・「控除額(E)」とは、計算式のとおり、「補助事業対象経費(B)」のうち、補助事業者が自己負担によって支出した額です。
「納付額(F)」の分子の計算を見てもらえばわかりますが、「補助事業に係る収益額(D)」よりも、この「控除額(E)(自己負担金額)」が大きい場合には、納付は一切必要ありません。
要するに、「利益」が出なければ納付は不要ということです。
補助金適正化法 第7条第2項では、「収益」と書かれており、「利益」に限定していませんが、この補助金では、このような計算となっています。
ちょっとわかりづらいかもしれないので、計算式に当てはめてみましょう。
事例1
補助金額(A) = 50万円
補助事業対象経費(B) = 75万円
補助事業に係る収益額(D) = 25万円
控除額(E)= 75万円 - 50万円 = 25万円
納付額(F)=(25万円 - 25万円) × (50万円 / 75万円) = 0円
「補助事業に係る収益額(D)」は25万円あったとしても、「控除額(E)(自己負担金額)」が25万円あった場合です。
上記のような場合が、収益納付しない収益額の限界です。
それでいいのかは別として、補助事業期間終了時点では、自己負担額は0円ですね。
・「納付額(F)」の計算式のとおり、「補助事業に係る収益額(D)」よりも、「控除額(E)(自己負担金額)」が大きい場合でも、その額をそのまま全額納付するということではありません。
「補助金額(A)」/「補助事業対象経費(B)」という係数が掛けた値のようになります。
このため、この補助金では、受給した補助金額分の「利益」が出たとしても、受給した補助金額を全額納付するわけではありません。
また、「補助金額(A)」/「補助事業対象経費(B)」を係数と考えたとしても、「補助事業対象経費(B)」の割合が大きい方が、納付額が少なくなる、ということですし、結局のところ、「補助事業対象経費(B)」-「補助金額(A)」である「控除額(E)(自己負担金額)」が大きければ大きいほど、納付額が少なくなる、ということと同じですね。
こちらは、文字だけですと納付金額にどのように違いが出るかわかりづらいので、下記の事例で計算してみましょう。
事例2
補助金額(A) = 50万円
補助事業対象経費(B) = 75万円
補助事業に係る収益額(D) = 50万円
控除額(E)= 75万円 - 50万円 = 25万円
納付額(F)=(50万円 - 25万円) × (50万円 / 75万円) = 16万6667円
事例3
補助金額(A) = 50万円
補助事業対象経費(B) = 150万円
補助事業に係る収益額(D) = 125万円
控除額(E)= 150万円 - 50万円 = 100万円
納付額(F)=(125万円 - 100万円) × (50万円 / 150万円) = 8万3334円
事例2では、「補助事業に係る収益額(D)」から「控除額(E)(自己負担金額)」を引いた値は25万円です。
このときの「納付額(F)」は、16万6667円です。
事例3でも、「補助事業に係る収益額(D)」から「控除額(E)(自己負担金額)」を引いた値は25万円です。
しかし、このときの「納付額(F)」は、8万3334円です。納付額は半額です。
このように、同じ金額の補助金を受けて、同じだけの利益があったとしても、「補助事業対象経費(B)」(=「控除額(E)(自己負担金額)」)が多ければ多いほど、納付額が少なくなります。
まとめ
今回は、収益納付について説明してみました。
まとめると以下のとおりです。
・補助金は交付されたら、どんな場合でも返さなくていいというわけではない。
補助事業の完了により相当の収益が生ずる場合において、その交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付しなければいけないという場合がある。(これを収益納付という。)
・全ての補助金で収益納付が必要とされているわけではない。
補助金によって様々なため、申請しようとしている補助金の公募要領、交付規定、手引き、FAQ等の確認が必要。
・収益納付が必要な場合でも、実施しようとする補助事業が対象となるかも、申請する補助金によって様々。
こちらも、申請しようとしている補助金の公募要領、交付規定、手引き、FAQ等の確認が必要。
補助金申請や受給のルールは、その補助金によって様々です。
同じように、この収益納付に関する事項も様々です。
収益納付については、申請時に把握しておかないと計画が狂ってしまう内容なのに、交付要領や申請の手引きには、細かい内容が載っていない場合が多いです。
必ず、交付規定、交付の手引き、よくある質問などもしっかり確認して、
・今回の補助金は収益納付の規定があるのか?
・実施しようとしている補助事業は収益納付が必要な事業か?
・必要となった場合の納付額はいくらになるのか?
などをしっかりと調べたうえで申請をして、その後の計画が狂わないようにしておきましょう。